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死線・・・その先にあるもの


僕はただの平凡な高校生だった。
成績も中の下。なぜか古典が得意だったが、そんなものが世の中に出て必要ないのも知っていた。
身長170cmあるかないか、ルックスも少し童顔かなといったところだ。
そんな僕は、友人に言わせれば普通が服を着ていると言われるくらい普通だった。
だが、僕には他人に話したことのない、自慢できない体質のような物があった。
それは、死というものに頻繁に出会うのだ。
死に頻繁に会う体質のおかげで、子供のころは人一倍死というものが怖かった。
だが、今は違った死というものが当たり前すぎて怖さを感じなくなっていた

今までの最高記録は中学二年生の時だ。30人近くの人の死に目に会った。
そのときからだ、僕が自殺をしようと思い始めたのは。だが、僕自身は死というものに嫌われているらしい。
もう、何度手首を切ったことか、何度車に撥ねられたことか、だが僕は死ななかった。
あと少しというところで、奇跡の生還を果たしてしまうのだ。だが、これまでにいろいろな代償を払ってきた。
手首を切りすぎて、左手はまともに動かず、車に撥ねられすぎて、骨は人工の物になっている。
それほどの怪我をしたことがあるのに僕は死ねなかった。
まるで、何かが邪魔をしているように。

最近になって、町のはずれにある廃ビルを見つけた。
そのビルは、人目に付かない場所にあり、もう何十年もほったらかしてあるようで、森と一体化していた。
それは、僕の死に場所にはおあつらえ向きな場所だと思った。
そんなことを考えていたら、僕の足はその森に自然に向かっていた。
気づくと、ビルの入り口のすぐ近くまで来ていた。
このビルを間近で見るのは初めてのことだった。
切り立った崖の上にたっているため、入り口側しか見ることはできなかった。
どうやら、このビルは5階建てで、屋上に出ることができるようだった。

ビルを見上げて呆けていた自分に気づき、頭を振り、意識を覚醒させる。
どうやら入り口のドアは鍵が掛かっているようで、びくともしなかった。
仕方がないので、僕は窓を破ることにした。
石を投げると、パリンッっという乾いた音とともに風化していた窓に穴があいた。
そこから手を突っ込んで、鍵を開けて中に入ってみる

足を踏み入れるとそこには、埃が綿のように積もっていた。

「ズボンが汚れるなぁ・・・。」

とボヤいて、自分の言ったことに苦笑した。
今から死のうとしている人間がズボンのことを気にしてどうするのだ。意味のないことを考えてしまった。
これは今思えば、少なからず僕にも死への恐怖が残っていたからかもしれない。
気持ちを切り替えて、エレベーターを探してまた苦笑する。電気が通っているわけがないのだ。
やはり僕は少なからず動揺しているようだった。

――――――カツカツカツカツ――――――――

無表情に階段のみを見つめ上ってゆく。
埃がまるで新雪のように僕の足跡を残してゆく、まるで、僕の生きた証を残すように。

そんなことを考えながら上っていると、ある異様なことに気がつく。
静かすぎるのだ。鳥の鳴き声すら聞こえない。
よく考えてみれば、入ってきてから一度も蜘蛛の巣すらなかったのだ。
不思議な空間だった。まるで、死のみしか存在しない、生の存在してはならない空間のようであった。
僕はここに来て確信した。なぜこのビルに惹かれたのか。このビルなら死ねると思ったのか。

そして、もっと不思議なことに気づいた。F6と書いてあるのだ。
外から見たときには、窓は5つ縦に並んでいた。そこから僕は5階建てだと思ったのだ。
ここにきて、僕は気がついた。ここは、生あるものが入ってきていいところではないのだと。
そしてもうひとつ階段を上ったところで、この考えがあまりにも馬鹿らしいことに気づいた。

そこには、Rと書いてあった。それは、僕に勘違いだと思わせるのに十分なものだった。
そして屋上に出て見る。意外にも見晴らしはよく、晴れ晴れとした気分になった。
崖のほうを覗いてみると、嫌な事実に直面する。なんと、窓が6つあるのだ。
今考えてみると、なぜ僕はこんなどうでもいいことを気にしたのだろうか。
今から死ぬ人間にそんなことは知らなくてもよかったのではないだろうか。
やはり、僕にも人並みに死が怖かったのだ。
死にたくなかったから、少しでも長く生きたかったから、僕はこんなどうでもいいことを不思議に思ったのだろう。
そして僕は、この謎を解明するために下に降りることにしたのだ。

降りてみると、構造は簡単だった。
ただ単に、入り口が2階だったというだけのことだった。

そして、もう一度屋上まで上った。
いよいよ死のうという人間が、何をやっているのだと思い、この日3度目の苦笑をした。

・・・・・・・遺書は書かなかった。
書く相手がいなかった。

・・・・・・・自分の死がみんなに分からなくてもいいと思った
行方不明で終わればいいと思っていた。

――――ビュゥ

ひときわ強い風が吹く。
まるで、僕に飛べといっているように。
まるで、このビルには生あるものがいてはいけないというように。

僕は、決心をきめ手すりを乗り越えた。
今まで、幾度となく夢に見た光景だ。
これで、やっと死ねる。
これで、僕のせいで人が死ぬのを避けられる。
そう思いながら手すりを離し、体を重力にあずけようとする。

そのときだった。

――――― チリンッ

鈴の音だった。
ごく小さい音だったが、この不思議な静寂の中では、やけに大きく響いた。

僕が驚き、振り返ると給水塔の影から女性が現れた。
その女性は、僕に向かってこう言った。

「気にせずに続けてくれ」

その男のような言い方が妙に似合っていた。

「・・・止めないの?」

「クスッ、君のように覚悟を決めた者を止めるほど私は暇人じゃないよ」

そこで僕はひとつの事実に気づいた。
僕は彼女に尋ねた。

「君はいつからここにいたの?」

彼女は不思議そうな顔をして答えた。

「もちろん君が来る前からだよ」

「嘘だ!」

僕は叫んでいた。

「君に嘘をいってなんになる?」

彼女は馬鹿にしたように答えた。

「だって、階段には誰の足跡もなかったんだぞ」

「フフフ、そうかそこまで見ていたのか。でも、私が何者であれ、君の覚悟は変わらないんじゃないかい?」

「君が最後の私の犠牲者なんだから・・・。」

「どういうことだ?」

僕は完全に彼女と敵対していた
彼女は、まるで、歌でも歌うかのように言葉を紡ぐ。

「私は人に死をもたらす者。
 私は人とは相容れぬ者。
 私は生きた死神。
 死に嫌われた者。」

同じだ。
僕はまずそんな感想を持った。
彼女と僕は同じ存在だと。

そのときだ。
彼女は突然微笑み、僕に向かってこう言った。

「久しぶりに人とまともに話した。もう何年も話してなかったからね」

「ありがとう。楽しい最後の思い出を。そして・・・」

「さようなら」

飛んだ。
彼女は飛び降りた。
同じ存在の僕を残して。

そして、僕も飛んだ。
崖に向かってまっさかさまに。

僕も、彼女に言いたかった。
僕も君と同じ生きた死神だと。
僕も、笑っていいたかった
何年ぶりかの話し相手になってくれて、ありがとうと。

落ちながら思った。
死んだらどうなるんだろうか?
彼女に会えるのだろうか?
僕のせいで死んだ人に会えるのだろうか?

もう、眼前に迫った死をぼんやりと見つめながら思った。
彼女の視線は僕をまっすぐ見つめていた。
そして言った。
ありがとうと。
あの言葉こそが、僕と彼女の死線だった。
言われたくても言われたことのなかった言葉。
ありがとう。
こんな死線も悪くないかと思う。

死線・・・その先には何があるのだろうか?

 

最後まで、読んでいただきありがとうございました。
ほかにも小説を書いていく予定なので、よろしくお願いします。