第一話 佐藤敏男と入れ違い
俺の名前は佐藤敏男。
現在売れっ子の探偵だ。
俺の担当した調査などは100%成功している。
今は女性が俺の事務所に来ている。
女性は言った。
「夫が浮気をしていると思うんです」
何のことはない、どうやら浮気調査らしい。
そして契約を済ませる。
「それでは、証拠がつかめ次第連絡しますので、お待ちくださいませ。」
と、いつも通りの言葉を口にし、女性を帰す。
この手の調査はもう何度もやったことがあるので、お手の物である。
大概は本当に浮気している。
そして、俺は依頼主に教わった通りに夫の会社へ張り込みに行く。
どうやら、中小企業のようだ。依頼主の話では、男は部長で収入もそこそこにあるらしい。
だが、この頃男は毎日のように接待という理由で遅くなるらしい。
時刻は8時を少し回ったところで、夫が出てくる。
俺は音もなくつけていく。
すると、若い女性と合流した。
これは、案外早く方が着きそうだと思い、俺は足早に距離を詰めていく。
二人は寄り添うようにしてバーに入っていく。
そして、窓際の夜景の見えるところに座る。
俺は、注意しつつカウンターに座る。
そして、バーテンダーに聞く。
「あの窓際の二人はよく来るのか?」
店員は無表情で俺の問いに答える。
「いくらお客様でも、プライバシーに関することはお答えできません」
俺はバーテンダーに福沢諭吉を掴ませつつ言う。
「常連さんなの?」
バーテンダーは困った顔をしつつ答える。
「ええ、よくきますよ。いつもあの席に座りますね」
今度はちゃんとした答えが返ってくる
「サンキュ」
俺は簡単な礼を言いつつ二人組みに目をやる。
見るからにイチャイチャオーラが出ている。
そして、証拠の写真をとる。
ついでに、トイレに行くフリをして彼らの席に小型の盗聴器を仕掛ける。
そしてトイレで会話を盗聴する。
『―――じゃぁ、行きましょうか』
女の声だ。
『ああ、その前に僕はトイレにいってくるよ』
ザッ
男の立つ音が聞こえる。
そして俺はすぐにトイレを出て、盗聴器を回収してカウンターに座る。
これで、証拠はある程度つかめた。
しばらく酒を飲んでいると、男が帰ってきて女と一緒に席を立つ。
それを見て、俺はすぐに席を立ち、勘定を済ませる。
そして先に外に出て、路地に隠れつつ出てくるのを待つ。
またしても寄り添いながら出てくる。
これは、かなり親密な関係なのだろうと見た俺は二人をつけていく。
そして、行き着いた先がラブホテルだった。
そこへ入っていくところを写真に収める。
これで仕事完了だ。
携帯で依頼主に報告して、俺は帰路につく。
今回はちょろい仕事だった。
次の日、依頼主が尋ねてきた。
俺は彼女に写真を渡す。
それを見た彼女は見る見る表情が変わっていった。
そして、帰り際に報酬と一緒に喫茶店のコーヒー無料券を渡してくれた。
彼女の話によるとその喫茶店のコーヒーは絶品らしい。
俺は、無料券を忘れないうちに使ってしまおうと彼女が帰ってすぐに出発した。
その喫茶店は、店先にジャック・オ・ランタンのぶら下がった怪しい店だった。
店の名前は“喫茶グリモワール”という、これまた怪しい名前である。
まぁ、俺は気にせずに店に入る。
中はおしゃれで、雰囲気のいい店だった。
そして、俺はカウンター席に座り注文する。
「アメリカンひとつ」
やはり、探偵といえばコーヒーだ。
マスターはなれた手つきでコーヒーを入れる。
そして、香りもよく美味しそうなコーヒーが運ばれてくる。
俺は一杯だけ砂糖を入れる。
そして、香りを楽しみながら口に含む。
・・・おかしい
俺はもう一口飲んでみる
・・・やはりおかしい
しょっぱいのだ。
砂糖と塩を入れ違えたのだろう。
しょっぱいコーヒーだった。
俺は佐藤敏男。
この日は憂鬱といった感じで帰路につく。
第一話完
これは、シリーズ物なのでもう少し続きます。